下村湖人(1884 – 1955)
(写真はwikipediaより)
佐賀県出身、東京帝国大学英文科を卒業し、中学校の教師や校長を歴任。
教職を辞めた後は、講演や文筆活動に力を尽くし、生涯を通して多くの若者に影響を与えました。
歎異抄をたたえる人々4 下村湖人
作家・下村湖人(しもむらこじん)
下村湖人の代表作は自伝的長編小説『次郎物語』です。
何度も映画化され、ドラマにもなりました。
学校の課題図書でもよく取り上げられ、よく読まれています。
主人公の次郎が、里子に出されて、成長していくさまを描いています。
その絶筆となった第五部で、次郎は『歎異抄』に読みふけります。
次郎は、今、その空林庵の四畳半で、雀の声をきき、その飛び去ったあとを見おくり、そしてしずかに「歎異抄」に読みふけっているわけなのである。
かれがなぜこのごろ「歎異抄」にばかり親しむようになったかは、だれにもわからない。
それはあるいは数日後にせまっている第十回目の開塾にそなえる心の用意であるのかもしれない。
あるいは、また、かれの朝倉先生に対する気持ちが、
「たとへ法然上人にすかされまゐらせて念仏して地獄におちたりとも、さらに後悔すべからずさふらふ」
という親鸞の言葉と、一脈相通ずるところがあるからなのかもしれない。
さらに立ち入って考えてみるなら、自分の現在の生活を幸福と感じつつも、まだ心の底に燃えつづけている道江への恋情、恭一に対する嫉妬、馬田に対する敵意、曽根少佐や西山教頭を通して感じた権力に対する反抗心、等々が、「歎異抄」を一貫して流れている思想によって、煩悩熾盛・罪悪深重の自覚を呼びさます機縁となっているせいなのかもしれない。
下村湖人も『歎異抄』を読んでいたことは、間違いありません。
このように多くの知識人たちが、『歎異抄』を愛読しているのです。